森の再生プロジェクトで取り組むテーマのひとつが『ナラ枯れ対策』です。
ここ数年、ナラ系の木々が夏の時期に紅葉しているように真っ赤になって枯れている現象=『ナラ枯れ』が藤野周辺で目立つようになってきました。
年々勢いを増しているようで、今回の観察会を行う石砂(いしざれ)山においてもナラ枯れが至るところで発生しています。
今回、藤野在住の山岳写真家である三宅岳さんガイドのもと、三宅さんが所属する『しのばらギフ蝶の会』メンバーのご協力もいただき、この石砂山で発生しているナラ枯れの状況を観察するウォーキングを行なってきました。
石砂山とギフチョウについて
篠原の里に集合し、三宅さんから概要説明。
ナラ枯れの原因となっているのが、カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)という昆虫。一本のコナラ(など)から数千匹のカシナガが発生して、それぞれが飛翔し、新しい木に取り付いていく。
カシナガが侵入するのは大径木。
石砂山付近では、コナラの木に被害が目立つ。
コナラは篠原の雑木林を代表する木。
クヌギコナラ林と呼ばれるが、クヌギに比べてコナラが圧倒的に多い。古くより薪炭に利用されてきたが、近年は手入れが追いつかなくなっている。
篠原では現在も炭焼きが行われているが、コナラは優秀な炭材。昔はコナラ林の維持管理ができていたが、炭を焼く人の減少とスギ・ヒノキの植林が増大したことで、コナラ林は伐期を過ぎて大径木化が進行。
これにより、カシナガのターゲットになっている。
三宅岳さんより
石砂山とギフチョウ、ギフチョウとナラの木の関係についてもご説明いただきました。
神奈川県には28ヶ所の自然環境保全地域があり、その中で唯一特別区に指定されているのが『石砂山』。現在、自然環境保全指導員が唯一配置されている場所。
神奈川県指定の天然記念物である『ギフチョウ』が生息している。日本の固有種でアゲハチョウ科。
カタクリや春植物の目覚めとほぼ同期して羽化し(3月に一斉に生まれる)、5月には消えてしまう。
ナラがあると、ギフチョウが育つのに適した環境ができやすく、雑木林とカンアオイがあって、ギフチョウがいる関係。
今日(開催日:2022年4月17日)は寒いので、飛ぶかどうかギリギリ。ただ、卵が産まれているので、カンアオイの葉の裏で見つけられるかも。
三宅岳さんより
東海自然歩道を歩く
子どもから大人まで、約20名でウォーキング開始。時間の都合、東海自然道を行けるところまで行って引き返してくるプランです。
この地域ではギフチョウの採集を禁じているだけでなく、関東カンアオイ・春蘭・ヒトリシズカの採取も禁止(罰金対象)されています。
ミツバツツジ。ギフチョウが花の蜜を吸いに飛んでくるようです(今回は確認できず)。
この側にはモミジイチゴの花も咲いており、ここにもギフチョウがよく来るとのこと。
山道とその周り。部分的に階段など整備されていますが、踏み固められて木の根が浮き出しているところが多々あり。
下草がなく雨のたびに土が流れ落ちていく状態は、他の山と同じでした。
樹齢60年くらいのナラの木に、カシナガの穿入孔と穿入時に出る木屑(フロス)がありました。
「このあたりのナラは昔、炭にされていたが、木を焼き切らなくなったのでこのような太木が増えている(三宅さん)」とのこと。
大径木を好むカシナガに穿入されやすい環境になっています。
広葉樹エリアにナラの木が多くありましたが、よく見ると穿入孔のある木やフロスの出ている木が至るところで見受けられました。
カシナガは6月頃から活動を活発化するため、今回の観察会では昨年生じたフロス(雨風で土になりかけている状態)から状況認識するに留まりましたが、被害の状況や今後への懸念を十分に実感することができました。
ギフチョウの卵
ギフチョウを見ることはできませんでしたが、カンアオイの葉裏にギフチョウの卵を見ることができました。
ギフチョウが飛ぶ季節は登山客が増えるため、しのばらギフチョウの会のみなさん中心に保護活動の声かけをおこなっています。
今回の観察会を機に、ギフチョウの育つ環境を守り、育てる取り組みを検討していきたいと思いました。
私たちができること
今回の観察会を終えて、参加者一人ひとりが「自分にできることは何か」を考えるきっかけになったように感じています。
- もし登山道の周りで枯れ木があったら、市や県に報告しよう。
- 報告で止めず、そのあとの伐採、伐採した木の活用まで考えられると良いね。
- 若い木は鹿に食われて葉がなくなる。葉がなくなると木がなくなり、土を支えられなくなって土砂崩れになる。こういう悪循環にならないようにしたい。
解散前、参加した人たちからこのような感想が出ていました。
最後に、しのばらギフチョウの会の方から一言。
「ナラ枯れの木に対して、薬剤をまくことは絶対にやめてほしい。そこに住む昆虫まで殺してしまう。」
人目線ではなく、自然目線でコトを捉え、考えていくようにしたいと思います。