[レポート]4/5(金)風の森学び舎〜風の剪定講座

これから春夏を迎え、多数の樹木が枝葉を広げていく季節。

緑豊かなゴルフコースにするためには、樹木にとって自然な関わり、手入れが必要です。

今回の『風の剪定講座』は、埼玉県で造園業を営み、大地の再生 関東甲信越支部にて長年活動されている押田大助さんより、樹木に負担をかけず、自然な状態を保ち育てる剪定方法を学ばせていただきました。

切りすぎないで、風と光を通すことを意識する

まずは、事務所内で剪定について資料をもとに押田さんからご説明いただきましたので、ポイントをいくつかご紹介します。

関係者と一般参加者、総勢30名の方にお集まりいただきました
関係者と一般参加者、総勢30名の方にお集まりいただきました

剪定とは、切り揃えることではなく、風と光を通すこと。

基本的に、枝を間引いて風を通すようにしていくことを考えるようにしていきます。

人はどうしても木を切りすぎてしまい、道具を持つと更に加速するので、気持ちと行動にブレーキをかけていくことが必要。

剪定をするときは「軽めに、軽めに、やりすぎない」ことを常に意識して臨むようにしてほしいとのこと。

風と光を通す剪定を実演いただきました
風と光を通す剪定を実演いただきました

とにかく、切りすぎないこと。

切りすぎは、木が弱っていく要因となるので控えること。

切る時は、切ろうとしている樹木の枝葉の量の1/3-1/5に抑えることを目安にしてみると、切りすぎずに済むようです。

株立している木に対しては、サイズを小さく・形を丸く整えようとして、先の方を丸ごと切り揃えていくことがよくありますが、このようにすると切り口から細かい目が多数芽吹いて、暴れた状態に。

切り詰めて木が暴れた状態(白い矢印)2024/1/16撮影
切り詰めて木が暴れた状態(白い矢印)2024/1/16撮影

人はこれを見て、更に抑え込もうとして切る。

これを繰り返していくことで、気は弱り、枯れ込んでいってしまいます。

切る時期・切る位置・切る量

剪定で大事なポイントは、切る時期、切る位置、切る量

切る時期は木の種類(常緑樹、広葉樹、落葉樹など)によって異なりますが、大体は夏前と秋〜冬時期に行うことが多いです。

冬は落葉樹の休眠期間なので、強剪定を行うならこの時期。

太い枝を切る位置は「ブランチカラー」と呼ばれるところで。

>>ブランチカラーについて詳細はこちら

枯れ枝は、このブランチカラーの位置で折れます。

木にとって不要な枝が台風や雪、強風で自然に落とされるとき、それは自然に倣った切り方となります。

剪定時は目の高さ以下に集中しがちなので、上の方も選定してバランスを意識
剪定時は目の高さ以下に集中しがちなので、上の方も剪定してバランスを意識

頂芽優勢という言葉があり、上の方をしっかり切る。木は、上の方が伸びやすくなっており、手の届く範囲として下の方ばかり集中してしまうと、切ったところは上の方ほど伸びないため、結果的にバランスの悪い形状になってしまいます。

3つめのポイントは切る量。

剪定は、この「切る量」が最も重要で、切りすぎは気を弱らせ、枯らす要因となってしまうので要注意です。(切る量については前段をご参照ください)

たとえば江戸川区では、街路樹管理に目標(樹形、樹高など)を設定して管理しています。

街路樹の剪定業者が変わることがあるため、業者によっては切りすぎてしまうリスクが存在し、切られてしまうとそれまで管理していたものが台無しになってしまいます。

これを防ぐために、街路樹それぞれに目標=基準・仕様を設け、この目標に準じて剪定することで美しい景観を保っています。

ふじのマレットゴルフ場でも、樹木を健康な状態で育てていくために、これを採り入れてみてはどうか?と押田さんよりご提案がありました。

地中の環境改善の視点

木は基本的に「切られたくない」と思っており、手を入れず、自然な状態にしておくことが一番自然。

木自体が、不要な枝を自然に落とし、自然な樹形を保ち続けています。

その自然な状態に、人が不用意に手を入れていくことで、木が暴れる。

そんな関係性を鑑みて、できるだけ自然に倣った剪定を心がけていくことが必要と参加者が認識を深めていく中、「木の剪定のみで、木を収めていくことは難しい(押田さん)」とのこと。

地中の環境改善と風の剪定をセットで行うことで、初めて木が落ち着く」という、もうひとつの視点が存在しました。

その地中の環境改善のやり方例としては、

  • 土が剥き出しのところに落ち葉を敷くことで、浸透を促進する
  • 表層の草を活かして、落ち葉が循環するようなかたちを作る

など。

地面の上下、両方を整えていくことで、木が自然な状態に落ち着いてイキイキしてくるので、虫の被害も収まり、消毒が不要になるようです。

枯れ枝への対応

マレットゴルフ場には多数の樹木があり、枯れ枝を見つけることもよくあります。

この枯れ枝は、全部を取り除かなくても良いとのこと。

自然の木は、その木にとって最良のタイミングで枯れ枝を落とすようになっています。

ここで無理に枯れ枝を切ってしまうと、木のバランスが崩れ、その枝がなくなることで風通しの状態も変わるため、木にとって環境が変わる=適応しようと木に負荷がかかる状態を引き起こしてしまいます。

プレーヤーさんにとって危険なところは切る必要がありますが、木にとって必要だから(枯れ枝が)ついているという見方で、枝先など、手で折れる範囲にとどめて調整していくと良いです。

実践〜剪定のビフォーアフター

座学で得た視点を用いて、コース内の樹木で実際に行ってみました。

手が届かないところは脚立や高枝鋏を利用
手が届かないところは脚立や高枝鋏を利用

コース内にある低木、中木を参加者それぞれが自由に選び、数名でチームを組んで剪定していきます。

枝は、間引いただけでも両手で抱えきれない量が出てきます。

普通、これらの枝は燃えるゴミで処分されてしまったり、太さや長さのあるものはお金を払って廃棄するものになりますが、大地の再生では、これらの枝は剪定した木の根元に敷き込んで土中環境の改善に用いるため、廃棄することはありません。

選定した枝を木の根元に鳥の巣のように敷き込みます
剪定した枝を木の根元に鳥の巣のように敷き込みます

具体的には、枝と葉を木の根元へ均等な暑さとなるように置きながら、枝を時おり土に刺して、鳥の巣のように柵ませます。

こうすることで草が生えにくくなり、グランドカバーとなって土の乾燥も抑えることができます。

この枝は一年も経つと風雨に晒されながら分解されてなくなり、土に変わり、堅かった地面が柔らかくなっていくようです。

分解された後は、昆虫たちの住処にもなり得ます。

ここからは、参加者が剪定した木のBefore、Afterです。

初めての実践のため、やりすぎた箇所もありますが、目通しが効いて風が通るようになりました。

剪定した枝は、いずれも木の根周りに敷き込んであります。

事務所横にある松の剪定にも着手。

松は、古い葉を手で取りながら、下の段に陽が当たるように枝を抜いていくのがポイントです。

時間の関係で、半分は未着手とし、後日スタッフの方々に練習兼ねて行っていただくことにしました。

土留め作り

剪定した枝を用いて、斜面地の土留め作りも行いました。

マレットゴルフのコース以外(ラフやOBエリア)は草の繁茂を抑えるために草が刈られています。

この草を刈りすぎると、草の根が行っていた地中に対しての空気や水の浸透がなくなるため、地面が渇き、斜面は崩れやすくなります。

崩れたところを雨水が走り、地面を削り取っていくことでさらに状態が悪化していきます。

これを抑えるため、土が剥き出しになっている部分や、雨水が走って土が削られている部分に対して土留めを入れました。

枝を柵ませることで、泥越しや通気の機能が保たれます

土の状態、斜面の草の状態の変化を今後追っていきたいと思います。

まとめ

雨が降り気温も低い中での作業でしたが、事故や怪我なく1日の作業を終えることができました。

作業後のまとめで、押田さんからいただいたコメント(剪定のポイント、今後の心がけなど)です。

  • 人の目に触れる木は、裏からやると失敗か少なくなる。
  • 木を通して向こう側が見えるというのは、風が通ることと同じ。光が通ることでその木の持つ美しさが現れてくる。
  • 人から見た美しさと、自然な美しさは違うので、とにかく木を切りすぎないこと。
  • 剪定時は自分の手の届くところのみにせず、上の方まで処置すること。下の方はほどほどに。
  • 風の剪定の視点を学ぶことで「今までの剪定はやりすぎてしまった」と反省する声がいくつかあったが、これまでの剪定方法は、当時はそれで良かったから行っていたもの。
    ただ、当時と今では木を取り巻く環境が変わり、当時のやり方では木の健康を保てなくなっている状況がある。
    木の役割、土中の役割、環境、これらへの視点を持って、今後は関わっていくことが大事。
  • 木は、切りすぎることで痛んでいく。「木の調子が悪くなったら伐採してしまう」ということが、全国で起きている。
    木と土中の状態、双方の視点で何が起きているのか?なぜ木の調子が悪くなったのか?を想像し、木を優しく扱っていくことで、木が本来の健康を取り戻すはず。
    緑を守り、増やし、未来へ繋いでいくことが、今の私たちの役割

今回の学びを、他の場所で行う剪定のときに活かし、広めていければと思います。

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